はじめに
下腿義足のアライメント調整は、ユーザーの歩行能力や快適性に大きな影響を与えます。矢状面でのアライメントは、「膝折れ」や「反張膝」などの歩行パターンに直結します。今回は義足のソケットと足部の位置関係が引き起こす現象と、その具体的な対処法について解説します。
矢状面におけるアライメントの影響と対処法
矢状面でのアライメントは、立位や歩行時の「膝折れ感」や「反張膝傾向」に大きく関与します。これらの現象が発生した場合の原因と対処法について解説します。
スタティックアライメントの問題
膝の前方への不安定感(膝折れ感)
ケース1:足部に対してソケットが前方に位置している場合
- 現象
- 膝が前方に押し出される感覚があり、膝折れを起こしそうになる
- 靴底は地面に隙間なく接地している
- 原因
- ソケットが足部に対して前方に位置しすぎている
- 対処法
- ソケットを後方に移動する
- 解説
- ソケットを後方に移動することで、体重過重線が膝関節の後方を通り、膝折れ感が軽減します
ケース2:ソケットの屈曲角度が過大な場合
- 現象
- 膝が前方に押し出され、膝折れ感が生じる
- 靴底ではつま先が浮き上がる
- ソケット内で前方遠位部と膝下部に圧迫感がある
- 原因
- ソケットの屈曲角度が過大
- 対処法
- ソケットの屈曲角度を減少させる
- 解説
- 過度な屈曲角度は、膝関節を過度に屈曲方向へ誘導し、膝折れ感を引き起こします
つま先が浮き上がる現象の理解
学生時代、中々理解することができず困っていたところ、友人にこの絵を教えてもらい理解することができたので紹介します。
ソケットを極端に屈曲させた状態をイメージすることがポイントです。その後図の通り、膝を伸展させても(絵そのものを膝の伸展方向に回転させると)つま先が浮き上がります。これは義足のパーツが固定されているためです。迷ったら一度お試しください。
膝の後方への不安定感(反張膝傾向)
ケース1:足部に対してソケットが後方に位置している場合
- 現象
- 膝が後方へ押される感覚がある
- 靴底は地面に隙間なく接地している
- 原因
- ソケットが足部に対して後方に位置しすぎている
- 対処法
- ソケットを前方に移動する
- 解説
- ソケットが後方にあると、体重過重線が膝関節の前方を通り、反張膝傾向を引き起こします
ケース2:ソケットの屈曲角度が不足している場合
- 現象
- 膝が後方へ押される感覚がある
- 靴底では踵(かかと)が浮き上がる
- ソケット内で前方近位部と後方遠位部に圧迫感がある
- 原因
- ソケットの屈曲角度が不足
- 対処法
- ソケットの屈曲角度を増やす
- 解説
- 屈曲角度が不足すると、膝が伸展方向に誘導され、反張膝傾向を助長します
踵が浮き上がる現象の理解
つま先が浮き上がる現象の逆で、生体の軸やソケット、足部の位置関係を変えずに膝を伸展させると踵が浮きます。義足の構造(一定の角度で固定されている)を前提に考えると理解が進みます。
ダイナミックアライメントの問題
膝の不安定感(膝折れ感)
- 現象
- 踵接地時に膝が前方へ押し出される
- 立脚終期に重心が落下し、義足での立脚期が短く感じる
- 断端の前方遠位部と膝窩部に圧迫感がある場合も
- 原因
- ソケットが足部に対して前方に位置しすぎている
- ソケットの屈曲角度が過大
- 対処法
- スタティックアライメントの確認:つま先が浮いている場合はソケットの屈曲角度を減少させる
- 必要に応じてソケットを後方に移動する
膝の不安定感(反張膝傾向)
- 現象
- 膝が後方へ押される感覚がある
- 立脚中期で坂を登るような感覚がし、義足が長く感じる
- 原因
- ソケットが足部に対して後方に位置しすぎている
- ソケットの屈曲角度が不足している
- 対処法
- スタティックアライメントの確認:踵が浮いている場合はソケットの屈曲角度を増やす
- 必要に応じてソケットを前方に移動する
足部のカテゴリーと膝の不安定感
足部の前足部や踵部の硬さも膝の不安定感に影響します。
- 踵が硬すぎる場合:膝折れを誘発
- 踵が柔らかすぎる場合:反張膝傾向を助長
適切な足部の選択は膝の安定性にとても重要な要素です。踵の硬さについては、下肢装具でも同様現象が発生するので、上記の2つは頭に入れておくと、下肢装具の問題解決に応用することができます。
まとめ
矢状面での下腿義足のアライメントと膝関節の関係性について解説しました。主なポイントは以下の通りです。
- ソケットの屈曲角度が過大:膝折れ感を引き起こす
- ソケットの屈曲角度が不足:反張膝傾向を助長する
荷重線の位置を意識することで、問題解決の糸口が見えてきます。この記事が問題解決の糸口になれば幸いです。
それではまた。
参考文献
義肢装具のチェックポイント
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