はじめに
義足を製作する際に利用できる制度や、その違いについて知りたい方へ。本記事では、本義足と仮義足の違い、用語の解説、そして義肢装具士として私個人が、仕事中に普段回答しているよくある質問をまとめました。義足の製作を検討されている方や、そのご家族の参考になれば幸いです。
本義足とは何か?
本義足とは、制度上の言葉で「更生用義足」に該当します。本義足と更生用義足は同義であり、病院での訓練を終えた後、身体障害者手帳の制度を利用して費用補助を受けて製作する義足を指します。また、労災の補償制度で費用補助を受けて製作する義足も更生用義足に含まれます。
一部の方は、チェックソケット製作後に作成するソケットが装着された状態の義足を「本義足」と勘違いされることがありますが、これは全く異なります。本義足は「更生用義足」のことであり、この前提を理解していないと申請時に混乱を招く可能性がありますので、ご注意ください。
仮義足とは?
仮義足とは、制度上の言葉で「訓練用義足」を指します。これは、義足での歩行訓練を目的として、製作費用を健康保険等の公的医療制度から補助を受けて製作する義足です。公的医療制度を使用するため、医師の処方が必要となります。これは治療用装具と同じ概念です。
チェックソケットとは
チェックソケットは、ソケットの適合を評価するために使用するソケットです。納品前の仮合わせに使用するソケットであり、仮義足と混同されがちですが、名称的には全くの別物です。本義足でも仮義足(訓練用義足)でも使用します。
本義足と仮義足の違いはなにか?
端的に言えば、制度上の名称が違うだけです。一つのモノ、製品として仮義足と本義足に何の違いもありません。義足の製作費用を補装具費支給制度を使って賄う場合に、健康保険とその他の制度で名称が違う、という認識で問題ありません。
最初から本義足を製作することはできるのか?
仮義足を製作せずに本義足を製作することは基本的にはできません。理由の一つとして、補装具費支給制度の優先度が挙げられます。実は、義足の製作費用を支給する補装具費支給制度は複数存在し、さらに優先順位があります。本義足を製作する際に使用する障害者手帳の補装具支給制度よりも、訓練用義足を製作する際に使用する公的医療制度(健康保険)の補装具費支給制度が優先されるからです。
制度の優先順位に関する記事はこちら
訓練用義足は複数製作できるのか?
複数製作することはできません。健康保険の補装具費支給制度では1度の切断に対して1具しか費用の支給が認められません。
訓練用義足(仮義足)の健康保険における支給については、厚生省保険局医療課長通知「練習用仮義足の支給について」(昭和62年2月25日付、保険発第7号)において、「症状固定前の練習用仮義足は、一回に限り治療用装具として療養費の支給対象とする」と明記されています。
参考URL 練習用仮義足の支給について(厚生労働省)
かなり古い通知ですが、これ以降新たな通知が出ていないことからも今現在も有効であると考えられます。
訓練用義足製作後の2具目以降の製作は、公的医療制度(健康保険等)は使用せず、障害者総合支援法(障害者手帳)の補装具費支給制度を使用して製作します。
労災制度の場合は?
労災制度を使用し義足を製作する場合は、労災制度で訓練用義足と更生義足の両方を製作します。これは労災の補装具費支給制度の優先度が健康保険と障害者手帳よりも高いためです。
労災制度の治療期間中は訓練用義足を製作し、治療終了後の補償として更生用義足を製作する形になります。申請先は管轄の労働基準監督署です。
本義足作成時の申請方法
障害者手帳の制度を使用して本義足を製作する際のプロセスは、更生用装具を製作する際と同じです。
- 役所の障害福祉課に本義足製作の申請
- 更生相談所による判定
- 判定に基づいて義肢装具製作所が見積を作成し提出
- 見積内容が妥当だと判断されれば支給券発行
- 義足の製作
- 完成した義足の適合判定
更生用義足を製作する際は、まずは役所の障害福祉課に行くことが必要です。
本義足製作時の費用負担は?
製作費の一割が自己負担金として設定されています。自己負担金には上限があり、上限金額は世帯の総所得によって決定します。住民税課税世帯では「37,200円」が自己負担の上限です。
参考URL:厚生労働省の補装具費支給制度の概要のページ
所得区分及び負担上限月額
所得区分 | 負担上限月額 |
---|---|
生活保護世帯に属する者 | 0円 |
市町村民税非課税世帯 | 0円 |
市町村民税課税世帯 | 37,200円 |
破損などで修理や作り替えする場合の費用はどうすればよいのか?
作り替えや修理にかかる費用も補装具費支給制度から支給されます。新規製作と同じく、役所の障害福祉課に申請する必要があります。
申請後のおおまかな流れは新規製作時と同じです。修理には判定を必要とするケースと必要としないケースが存在します。判定が必要かどうかは、更生相談所と役所の判断によって決定されます。自治体ごとに対応が異なるので注意が必要です。
作り替えするために必要な期間はあるのか?
義足には耐用年数が設定されています。破損や経年劣化がなければ、耐用年数内であっても作り替えの費用は支給されません。現代の義足は骨格構造が採用されており、パーツごとに耐用年数が設定されています。破損・劣化したパーツを修理という形で取り替えて新品に交換していくことも可能です。
ライナーだけ交換(修理)は可能か?
可能です。ライナーに限らず、骨格構造義足の場合、ほとんどのパーツが交換可能です。耐用年数にかかわらず、修理が必要な状態だと判定が下りれば、交換(修理)の費用が支給されます。破損した場合は耐用年数にこだわることなく、障害福祉課や義肢装具士に相談してください。
ライナー、足部等を別の種類に変更することは可能か?
更生相談所と役所の判定次第です。修理申請後の見積もり提出後に内容を確認して、判定の有無が決定されます。判定が必要であると判断された場合、新規製作時と同じく、判定を受ける必要があります。
修理時の適合判定について
修理申請時に判定が必要と判断された場合、新規製作時と同じく適合判定を受ける必要があります。
まとめ
本義足(更生用義足)と仮義足(訓練用義足)は、制度上の名称が異なるだけで、製品としての違いはありません。製作費用を賄う補装具費支給制度には複数の種類と優先順位があり、申請手続きや負担額も異なります。
- 本義足の製作には、障害者手帳の制度を利用し、自己負担は製作費の一割(上限あり)となります。
- 仮義足の製作には、公的医療制度(健康保険)を利用し、医師の処方が必要です。
- 修理や作り替えについては、破損や劣化の状態に応じて補装具費支給制度から費用が支給されます。判定が必要な場合もあるため、まずは役所の障害福祉課や義肢装具士に相談することをおすすめします。
皆様の疑問や不安が少しでも解消されれば幸いです。不明な点がございましたら、お気軽にご相談ください。
義足の用語についての記事はこちらも参考にしてください。
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