はじめに
タマラックとジレット。この2つはプラスチック短下肢装具の足継手の名称です。 どちらも足関節の底屈・背屈ともにほぼ遊動の足継手で、底屈制限にはモーションコントロールリミッターやスナップストップを使用します。
タマラックとジレットの違いは、主に2つあります。
- 継手に補強があるかないか(タマラックには補強あり)
- 継手に子供用のサイズがあるかないか(ジレットには子供用サイズあり)
実はこれ以外の機能に関しては、スペック上は大きな差はありません。 大人用のタマラック、子供用も選択できるジレットと覚えていただければ十分かと思います。 これらの違いは継手を選択する際に重要な要素になります。 今回は、タマラックとジレットの特徴と違い、継手を選択する際のポイントについて改めてまとめました。
継手選びの参考になれば幸いです。
ターゲット
- タマラックとジレットの違いについて知りたい方
- 装具選定に携わる方、短下肢装具の選定に悩む医療従事者の方
タマラックとジレット、何が違う?
タマラックとジレットの基本スペックについてです。
タマラックの基本性能
- 名称と品番:タマラック:Becker 740 (Tamarack Flexure Joint)
- ウレタン製。背屈に若干制動がかかるがほぼ遊動。
- ジレットと似ているが、継手の中心部に補強が入っている。
- 生理的足関節軸に近い位置に継手位置を配置可能。
- オプションで背屈補助機能を選択可能。(タマラック背屈補助継手)
- 背屈補助は「予め背屈位状態から底屈に制動された分が背屈補助で戻る」
ジレットの基本性能
- 名称と品番:ジレット:Becker 775 (Flexible Ankle Joint)
- Gillette 子供病院で開発された。
- ウレタン製。背屈に若干制動がかかるがほぼ遊動。
- 生理的足関節軸に近い位置に継手位置を配置可能。
- オプションで背屈補助機能を選択可能。(ジレット背屈補助継手)
- 子供用と大人用のサイズがある。
底屈の制限と初期背屈角度の調整方法
タマラックとジレットの底屈制限については下の記事も参考にしてください。
タマラックとジレットは継手自体に底屈制限機能を有していないので、 スナップストップやモーションコントロールリミッターを設置して底屈の制限を行います。 さらに、スナップストップやモーションコントロールリミッターの高さを変更することで、 初期背屈角度を変更することができます。
スナップストップの高さについて
スナップストップの高さは「3.5mm, 5.5mm, 7mm, 9mm」の中から選択でき変更できます。 発注時は1つしか選択できないので、後から変更する場合は別途料金が必要になるケースがあります。 担当の義肢装具士にご相談ください。
タマラック?ジレット? 状況別おすすめ継手選択ガイド
ここからはタマラックとジレットを選択するポイントについて解説します。 あくまで今回紹介するポイントは個人的な見解も含まれますので、実際に制作する際は処方医の指示に必ず従ってください。
成人ならタマラックがおすすめ
成人に対して、底屈制限・背屈遊動の足継手を選択する際は、第一候補としてあげれらます。 タマラックはウレタン製の継手の中心に補強材が入っているため、ジレットより耐久力があります。 成人の装具は小児用の装具とは違い、制度の都合上、頻繁に作り変えることができません。(修理は可能) そのため、よほど小柄な方でない限り、長期的に使用することも考慮に入れて、成人であれば耐久性が高いタマラックを選択します。
小児ならジレットがおすすめ
小児に対して、底屈制限・背屈遊動の足継手を選択する際の候補の一つとして良いです。 ジレットは小児用の小さいサイズを選択できるのが最大の特徴です。この特性は大きなメリットと言えます。 タマラックと違い補強材がないので、耐久面を心配される方もいらっしゃるかと思いますが、 よほど強い力が頻回に長くかかり続けない限り、そう簡単に破損しません。 ジレットとタマラックの耐久面の差は、経年劣化への対応力の差程度と考えて問題ないと思います。 特に小児用装具は成長に合わせて作り変えるペースが早いため、 経年劣化に対する対応は、そこまで考慮する必要はないです。
成人にジレットは使用できない?
使用しても問題ないと考えます。子どもの頃からジレットの装具を愛用されており、そのまま継続してジレット継手の短下肢装具を使用されている方は多くいらっしゃいます。継手の破損が心配な方は、定期的にベルトの修理などを義肢装具製作所に依頼すれば、継手の破損状況をチェックしてもらえますし、必要であれば継手の交換や作り変えの提案があります。ジレットに限らず、装具を利用されている方は、できれば1年に1回、最低でも3年に1回はメンテナンスを依頼することを推奨します。
タマラック・ジレットが適さないケースとは?
まず、大前提として背屈遊動に対応できない方には、タマラック・ジレットは適していません。例えば、立脚初期に膝折れが顕著な方など、膝のコントロールが難しい方には、背屈遊動の継手は適しません。
背屈遊動・底屈制限などの継手の用語についての記事はこちら
足関節内外反の力が強い方にもタマラック・ジレットはお勧めできません。 タマラック・ジレットは、内外反に対して矯正力を持っておらず、「捻じる」動きに強くありません。 内外反が強く、ベルトでのコントロールだけでは内外反を抑制できない場合は、両側支柱の短下肢装具の使用を推奨します。どうしてもプラスチック短下肢装具を使用したい場合は、「オクラホマ」などの左右方向に捻じれない足継手を選択することもあります。
プラスチック短下肢装具のベルトでの内反矯正についてはこちらの記事でも記載しています。参考にしてください。
第3の選択肢:エクシブルも検討しよう
オットーボックの提供する17AF10「エクシブル」についても最後に触れておきます。https://www.ottobock.com/ja-jp/orthotic/lower/ankle/x-ible
この継手も、タマラック・ジレットと同じ機能を有します。ジレットと同じく小児用のサイズも展開しています。 底屈の制限についても、タマラック・ジレットと同様にスナップストップなどを使用します。
継手の固定にはヘックスローブネジを使用しており、ヘックスローブドライバーとロックタイトがあれば、 現場でも容易に継手を交換できるのも魅力の一つです。
ヘックスローブドライバーについては下記のリンクを参考にしてください。
まとめ
今回はタマラックとジレットの違い、そして継手選択のポイントについて解説しました。 まずは、「成人ならタマラック、小児ならジレット」とシンプルに覚えると良いです。 そこから対応年数、装具の装着歴、内外反の有無、背屈遊動への対応力などを考慮して、タマラックやジレットだけでなく、 他の足継手も選択肢に入れて、適切な継手を選ぶことが、最適な足継手選びの第一歩につながると考えています。
この記事が、その時できるベストな選択の一助になれば幸いです。 それではまた。
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