はじめに
今回は、義肢装具士(PO)を目指す学生向けの記事です。旧ブログで国試対策用に作成した記事を再編集しました。脊髄損傷のレベル別に「何ができるのか?」「どのような装具が適応となるのか?」という問題は、PO国試でも頻出で、毎年数問が出題されています。そのため、この分野の学習は必須です。脊髄損傷に関する勉強を進める際、レベル別の適応装具一覧があると便利だと思い、探してみましたが見つからなかったため、自己満足も兼ねて、脊髄損傷の各レベルごとに適応となる装具、補装具、車椅子などをまとめました。
注意点
本記事は、義肢装具士(PO)国家試験の過去問題を基に、自分なりに解釈してまとめたメモです。この記事の内容は、あくまで国試対策としての参考資料であり、臨床現場での適用や判断には直接的に役立つものではありません。臨床での装具選定や治療計画には、個別の症例に基づいた専門的な知識と判断が必要ですので、本記事を実際の臨床に活用することはお勧めしません。
損傷レベルの定義と意味
脊髄損傷の「C5損傷」とは、実際にはC6レベルが損傷していることを意味します。これは、「一番下位で残っている髄節」を指すためです。損傷レベルの理解は、適切な装具の選定において非常に重要な要素となります。
C1~C3損傷
適応装具・機器
- 人工呼吸器
- 電動車椅子
- 環境整備装置
- 食事支援ロボット
C1~C3の損傷レベルでは自発的な呼吸ができず、四肢も動かせないため、すべての動作において介助が必要です。ただし、会話や飲み込み、頭の動きをコントロールすることは可能です。環境整備装置やパソコン、スマートフォンなどを活用することで、本人の活動を促進できます。
人工呼吸器
自発的な呼吸ができないため、人工呼吸器が必須です。
電動車椅子
C3損傷の場合、チンコントローラーを使用することで、顎で操作が可能です。
C4損傷
適応装具・機器
- 人工呼吸器
- 電動車椅子
- 食事支援ロボット
C4損傷では横隔膜を動かせるため、自発呼吸が可能になりますが、肺活量は正常の45%程度にとどまり、依然として人工呼吸器が必要です。四肢は完全に麻痺していますが、僧帽筋がわずかに動かせます。食事支援ロボットを利用することで、食事の自立が可能となります。
横隔膜と呼吸機能
横隔膜が動くことで自発呼吸が可能になりますが、肺活量は正常の45%程度です。呼吸器はまだ必要であり、胸髄レベルに達すると不要になることが多いです。
四肢麻痺
四肢は完全に麻痺していますが、僧帽筋がわずかに動かせます。肩甲骨が挙上位に拘縮することがあります。
C5損傷
KEY MUSCLE
- 肘の屈筋群
適応装具・機器
- 肩肘保持装具(BFO/PSB)
- 肩駆動式把持装具
- 体外力源駆動式
- 電動車椅子
- 通常型車椅子
- トランスファーボード
C5損傷では、肘の屈曲が可能になります。BFOまたはPSBを使用することで食事が可能になり、家庭内の限定的な条件下であれば通常型の車椅子も使用できます。
肩肘保持装具(BFO/PSB)
BFO (Balanced Forearm Orthosis) は下から支えるタイプで、PSB (Portable Spring Balancer) は上から吊り上げるタイプです。これにより、食事やパソコンの使用が可能になり、自立心の向上にも寄与します。
車椅子
屋内で平地であれば、通常型の車椅子で自走が可能です。自走する際には、ハンドリムに滑り止め加工を施すことや、滑り止め付きの手袋を使用することが推奨されます。
移乗動作
トランスファーボードを用いて、車椅子からベッドへの直角移譲が可能ですが、ベッドから車椅子への移譲はまだ困難です。
追加情報:筋肉と日常生活動作
- 使える筋: 三角筋前部繊維(肩の屈曲)、上腕二頭筋(肘の屈曲)
- 更衣: 上着は被り物のみ可能、ズボンはベルクロやファスナーに輪止めを使うことで補助。
- 排尿: 男性の場合、チューブ付きセルフカテーテルを用いた自己導尿が可能。
- 排便: 長便器で多介助が必要。直角移譲が可能。
- 入浴: 全介助が必要。
- 関節拘縮: 肩甲骨挙上位、肩関節外旋位、肘関節屈曲位、前腕回外位に拘縮が見られることがあります。
C6損傷
KEY MUSCLE
- 手関節背屈筋群
適応装具・機器
- 把持装具(手関節駆動式)
- 対立装具
- 車椅子
C6損傷では、手の背屈が可能になり、テノデーシスアクションを利用した把持が可能になります。
把持装具(手関節駆動式)
手関節を背屈させることで手指を母指と接触させる装具です。国試の問題では、エンゲン型、ランチョ型、ウィスコンシン型、IRM型、RIC型などが出題されます。
対立装具
母指の対立が困難な場合や手関節のコントロールが不十分な場合に処方されます。
車椅子
屋内の平地であれば自走が可能で、坂道も登ることができます。移乗動作にはトランスファーボードを使用し、サイドガードを上げることで横移譲が可能になります。
追加情報:リハビリと日常生活
- 起立性低血圧対策: リクライニング機能を用いることで対処。
- 褥瘡予防: ロホクッションやティルト機能を用いて座面圧を分散。リクライニングは褥瘡予防には効果が薄い。
- 移動手段: 電動車椅子のほか、普通の車椅子も使用可能。ハンドリムに加工を施す必要あり。アームサポートは肩関節の過緊張による上方姿勢を防ぐために2cmアップが推奨されます。
- 排尿: 女性の場合、開唇器を使用することで自己導尿が可能。
- 入浴: 環境設定が必要。
C7損傷
KEY MUSCLE
- 肘の伸展筋群
適応装具・機器
- 対立装具
- 柄の太いスプーン
- 車椅子
C7損傷では、肘の伸展が可能になり、プッシュアップ動作が行えるようになるため、移譲が楽になり、褥瘡への対処も可能になります。
車椅子
屋内外での自走が可能です。移譲動作では、トランスファーボードを使用せずに直角移譲ができ、横移譲も実用レベルで行えます。車への積み込みや運転も自分で行うことが可能です。
追加情報:機能と生活
- 筋力回復: 肘の伸展が可能になり、プッシュアップができることで褥瘡に自分で対応可能になります。また、移譲動作が楽になります。
- 更衣: 端座位でズボンの着脱が可能。
- 排尿: 道具を使用せずに排尿が可能。
- 排便: 手すり付き洋式トイレを使用することで自立可能。入浴は環境設定が必要。
- 車の運転: 車椅子の積み込みや運転が可能。
C8損傷
KEY MUSCLE
- 指の屈筋群
適応装具・機器
- ナックルベンダー
- 車椅子
C8損傷では指の屈曲が可能になり、上肢の機能がほぼ回復しますが、内在筋はまだ麻痺しているため、鷲手変形が生じます。
ナックルベンダー
MP関節の過伸展を防止するための装具です。
車椅子
屋内外での自走が可能です。体幹の安定性はまだ不十分で、ヘッドサポートなどが必要です。
追加情報:機能回復と生活
- 上肢機能の回復: 指の屈筋が機能することで、箸の使用が可能に。手の内在筋の一部はまだ麻痺が残り、鷲手変形が生じることがある。
- 移譲動作: 床からの移譲が可能。
- 更衣: 上着は自助具なしで、ズボンは車椅子上で着脱可能。
- 排尿・排便: 失禁処理が端座位で可能。
- 入浴: 一般浴での入浴が可能。ただし、端座位でのみ入浴ができる。
TH1損傷
KEY MUSCLE
- 指の外転筋
適応装具・機器
- 車椅子
TH1レベルの損傷では上肢の機能が完全に使えるようになりますが、体幹の安定性がまだ不十分で、移動手段として車椅子が必要です。
TH6損傷
KEY MUSCLE
- 胸筋群
適応装具・機器
- 骨盤帯付き長下肢装具 + 松葉杖
- 車椅子
TH6損傷では胸部の運動が可能になり、体幹も安定してきますが、腹筋を使った起き上がりはまだ困難です。自律神経過反射は見られなくなり、車椅子も小さくすることができます。
骨盤帯付き長下肢装具
TH6~TH10レベルに適応し、松葉杖と併用して使用します。股関節、膝関節、足関節をコントロールする構造で、膝継手には解除が簡単なスイスロック式を用いることがあります。
車椅子
体幹の安定性が向上し、ヘッドサポートが不要になり、背もたれも短くできます。車椅子の操作はすべて自立可能です。
TH12損傷
KEY MUSCLE
- 腹筋群、背筋群
適応装具・機器
- 両長下肢装具 + 松葉杖
- 対麻痺用下肢装具
- 車椅子
TH12損傷では腹筋と背筋が使用でき、体幹の機能が完全に回復します。両長下肢装具や対麻痺用装具を用いることで立位および歩行が可能となりますが、まだ実用的な歩行には至りません。
両長下肢装具
Cポスチュアを取らせることで立位の安定性を確保する装具です。膝継手には、解除が簡単なスイスロック式が用いられることがあります。
スコットグレイグ長下肢装具
この装具は、立位保持に必要な3点支持の要素を備えた簡素な構造です。通常の装具と同様に立位保持の機能は維持しつつ、着脱が容易になっています。
対麻痺用下肢装具
対麻痺用下肢装具は、長下肢装具に股継手を加えることで、股関節の制御を容易にし、継手の取り付け位置により交互歩行を可能にする装具です。股継手の取り付け位置には、外側系と内側系の2種類があります。
外側股継手
外側に股継手が取り付けられたタイプです。歩行方法に特徴があり、交互歩行が可能なタイプと不可能なタイプに分かれます。
- 交互歩行できないタイプ
- HGO
- パラウォーカー
- 交互歩行ができるタイプ
- RGO
- ARGO
交互歩行が可能なタイプは、歩幅や歩行速度を向上させることができ、内側股継手型よりも速く歩くことができます。ただし、自力での装着が難しく、座った状態での装着も困難なため、車椅子での使用は不向きです。
内側股継手(MSH-KAFO)
内側に股継手が取り付けられたタイプです。剛性が高く、たわみが少ないため、側方の安定性も高いとされています。また、車椅子との併用も可能です。歩行時には重心を前方に移動させながら進みます。
- ウォークアバウト: 原型となる内側股継手型。歩幅が出ないが、短軸の内側股継手を採用。
- プライムウォーク: ウォークアバウトの改良型で、歩幅が出しやすくなっています。
L2損傷
KEY MUSCLE
- 股関節の屈筋群
適応装具・機器
- 長下肢装具
L2損傷では股関節の屈筋が使用可能になり、歩行時に自ら足を振り出すことができますが、大臀筋などの股関節の伸展筋はまだ使用できません。そのため、長下肢装具を使用する際にはCポスチュアを取る必要があります。
追加情報:装具の種類
- スコットグレイグ: 3点支持を目指した簡素な作りの装具。膝継手には後方オフセットのベイルロック(スプリング入り)が用いられます。
L3損傷
KEY MUSCLE
- 膝関節の伸展筋群
適応装具・機器
- 長下肢装具
- 短下肢装具 + 杖
L3損傷では膝関節の伸展筋が使用可能になり、長下肢装具または短下肢装具と杖を用いることで実用的な歩行が可能です。
L4損傷
KEY MUSCLE
- 足関節の背屈筋群
適応装具・機器
- 短下肢装具
L4損傷では膝関節の伸展筋が完全に機能し、足関節の背屈も可能になりますが、足関節の底屈筋がまだ使えないため、背屈を制限する短下肢装具が必要です。
追加情報:足部の変形
- 踵足: 足関節の背屈を制限するため、短下肢装具が必要。
S1損傷
KEY MUSCLE
- 足関節の底屈筋群
適応装具・機器
- 装具は不要
S1損傷では足関節の底屈が可能となり、ほぼすべての運動が可能になるため、装具は必要ありません。
まとめ
この記事では、脊髄損傷のレベル別に適応する装具をまとめました。義肢装具士の国家試験では、「どのレベルで何ができるのか、できないのか」を把握しておくことが、解答を容易にする問題が多く出題されています。そのため、AISAのKEY MUSCLEと対応する装具を暗記しておくことは、国試対策において非常に有効です。
ただし、この記事はあくまで国家試験対策としてまとめたメモであり、臨床現場での適用や判断には直接役立つものではないことにご注意ください。実際の臨床では、個別の症例に基づいた専門的な知識と判断が必要です。この記事の内容を臨床に直接適用することはお勧めしませんが、損傷レベルを理解し、必要な装具を予測する能力は装具設計の際に非常に重要です。この知識を活かして、試験対策はもちろん、将来の臨床実務でも役立ててください。