はじめに
義足に関係する用語が多く存在し、理解しにくいという声をよく耳にします。
例えば、義足の呼称には「仮義足」、「訓練用義足」、「本義足」など様々なものがあり、それが混乱を招いている可能性があります。
そこで今回は、義足に関係する基本的な用語についてまとめてみました。
義足の用語をなんとなく知りたい方、義足に関係する制度を知りたい方は是非ご一読ください。
この記事の対象者
この記事では、
- 義足をこれから初めて作る方
- 義足のリハビリに携わっている方
- 義足に関係する制度を利用者に案内する方
仮義足?本義足?訓練用義足?更生用義足?
- 仮義足
- 本義足
- 訓練用義足
- 更生用義足
これら4つの言葉は補装具費支給制度に関係する用語です。制度上の呼び方が異なるだけで、義足そのものには大きな違いはありません。使用する社会保障制度に応じて、制度上の名前が変わるという認識で問題ありません。
仮義足と訓練用義足
仮義足と訓練用義足は同義です。切断後に病院で初めて作成する義足のことを指します。訓練用義足(仮義足)は、医師の処方のもと、治療が必要と認められた場合に健康保険等で製作が認められます。
切断後に健康保険制度を使って初めて作成する義足のことを「仮義足」または「訓練用義足」と呼びます。治療用装具と同じ制度を使用して作成する義足は基本的に訓練用義足という扱いになります。
ちなみに、義足を作成する際によく見かける半透明の青いソケットは「チェックソケット」と呼ばれます。チェックソケットについては後述します。
本義足と更生用義足
本義足と更生用義足は同義です。更生用義足(本義足)は、病院で訓練を終えた後、身体障害者手帳の制度を利用して製作する義足のことを指します。労災の補償制度で製作する義足も更生用義足に該当します。
チェックソケットとは
このいかにも仮のようなソケットはチェックソケットと言います。チェックソケットは、断端とソケットの適合を確認するために一時的に使用するソケットです。チェックソケットの形状と適合に問題がなければ、この形状を参考にして樹脂のソケットを製作します。仮義足=チェックソケットではありません。チェックソケットは本義足(更生用義足)でも製作します。義足を製作する過程で登場する仮合わせ用のアイテムと認識してください。
参考URL
練習用仮義足の支給について
補装具費支給ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000307895.pdf
義足の構成について
義足は複数のパーツを組み合わせて製作されています。基本的に以下のパーツで構成されています。(ライナー式の場合)
- ソケット
- ライナー
- 継手(大腿義足または股義足の場合のみ)
- 構造パーツ
- 足部
活動度や身体状況に応じてパーツを選択し、義足を組み上げていきます。
各パーツの説明
ソケット
実際に足が入る部分です。体重支持方法と懸垂方法によって形状が異なります。PTB、TSB、PTS、KBM、IRC、四辺形と形式によって様々な名称がありますが、今回は詳細な説明は割愛します。断端が入る部分と認識して頂ければ問題ありません。このソケットは主に義肢装具製作所が製作する箇所です。後述するライナー、足部、継手、構造パーツ等はパーツメーカーが生産しています。義肢装具製作所はメーカーから必要なパーツを仕入れて、義足を組み上げています。
ライナー
近年はライナーを履いてから義足を装着することが主流です。シリコンやコポリマーなどの材料で製造されています。主に硬いソケットと生体との間に緩衝材としての役割を持ち、ピンをつけることでソケットを懸垂する役割も果たします。
継手
大腿義足や股義足に使用されます。対象関節の代わりの役割を持ちます。膝継手は特に種類が豊富で、製品ごとに機能が異なります。機械的な摩擦力で膝の制御を行うものもあれば、油圧や空圧で制御するものもあります。立位時や歩行時は膝を曲げず、座位の時だけスイッチで膝を曲げるものもあれば、継手にマイコンが付いており、振り出しの速度をコントロールするものまであります。
構造パーツ
ソケットと膝継手や足部を連結するパーツです。ステンレスやチタンなどの金属で製造されています。
足部
足の代わりとなる部分で、カーボン・ガラス繊維・ウレタンなど様々な材料で製造されています。そのため、製品ごとに地面からの反発力や推進力の発生力、重さに違いがあります。
義足製作時における補装具費支給制度のプロセス(健康保険で製作する場合)
ここまでで義足の用語は一通り説明しました。ここからは、義足を製作する方の一般的な制度の流れを簡単に説明します。今回は健康保険で義足を製作し、その後身体障害者手帳の制度を利用するケースで説明します。なお、障害者手帳そのものに関する申請方法については専門外なので、説明を割愛します。
- 病院で訓練用義足を製作する
- 健康保険に必要な書類を揃えて申請(義肢装具士の番号が記載された10割分の領収書と装着証明書等)
- 病院を退院後に障害者手帳を取得
- 住民票がある市町村の障害福祉課に義足の新規製作を申請(申請の際には障害者手帳が必要)
- 県の更生相談所から判定を受ける(判定の方法は自治体によって異なります)
- 更生相談所の許可が出次第、義肢装具製作所と更生用義足を製作
- 完成した義足の適合を更生相談所によるチェック(適合判定)を受ける(適合判定の方法は自治体によって異なります)
- 県から適合良好の判定がでれば完了
上記が一般的な義足を製作する際の制度上のプロセスとなります。
まずは病院で訓練用義足を健康保険で製作し、退院後は更生用義足を身体障害者手帳の制度で製作する。この2点だけ覚えておけば問題ありません。
よくある質問集
労災の場合は?
基本的には同じ流れです。ただし、申請先が健康保険や自治体ではなく、事業所を管轄する労働局になります。
更生用義足を作った後はどうなるの?
身体の変化でソケットの不適合や義足のパーツに破損があった場合は、役所の障害福祉課に修理申請を行ってください。完全に義足を作り変える際も障害福祉課に申請する必要があります。その際には更生相談所による判定が行われる場合があります。
訓練用義足を製作せずに更生用義足は作れるのか?
これらは更生相談所の判断次第です。
訓練用義足から更生用義足を作るまでの期間はどれくらい必要か?
訓練用義足と更生用義足で異なるパーツは使用できるのか?
上記二つの2質問に関しても同じ回答となります。
身体障害者手帳の制度で義足を製作する際に支給される補装具費は各自治体が負担しています。そのため、県や市町村の判断が全てとなります。各自治体によって対応が異なるため、まずは役所の障害福祉課に相談することが重要です。
訓練用義足は再度作れるのか?修理は可能か?
原則健康保険制度を使用して訓練用義足を再制作することはできません。
また、健康保険制度を使って訓練用義足を修理することもできません。
基本的には、健康保険制度は一度だけ使用でき、その後は障害者手帳の制度(障害者総合支援法)に移行します。
まとめ
義足の用語解説、制度上の呼び方、制度のプロセスについてまとめました。
- 訓練用義足と仮義足は同義
- 更生用義足と本義足は同義
- これら2つは補装具費支給制度上の呼称
- チェックソケットは仮義足ではない
- 義足は訓練用と更生用の2本を作成可能
- 退院後は更生用義足を修理または作り変える
今回のポイントはこの6つです。補装具費支給制度が関係しているため複雑に感じるかもしれませんが、ポイントを抑えるだけで、義足の用語や制度に関する解像度があがります。何かの役に立てば幸いです。
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